恐竜は体の中で発生する熱で外界の温度よりも高い体温を作り出せすことができたと考えられる、あるいは鳥類に近い呼吸のしくみを備えていたようだ、などの点があげられます。
しかし、骨格の形態からすぐにわかるはっきりした特徴は、恐竜の股関節の構造と、そこから導きだされる歩き方です。
現存の爬虫類は、体の横から突き出した足ではって歩きます。
一方、恐竜の足は正面からみると、左右に張り出すことなく、体の真下に伸びているため、体が向かう方向に足を真っ直ぐに踏み出すことにより、鳥類や哺乳類と同じように効率よく進むことができます。
爬虫類のなかでもワニはいざとなると四つ足をかなり伸ばし、体を高く持ち上げて進むこともできます。
トカゲと比べると、より斜め下方向に足が伸びているからです。しかし、普段は腹ばいです。
一方、恐竜は股関節が次に説明するような構造になっているため、体の真下方向に足が伸びています。
骨盤(こつばん)の一部である腸骨(ちょうこつ)、恥骨(ちこつ)、坐骨(ざこつ) [ これら三つを
あわせて寛骨(かんこつ)と呼び、体の左右に1対あります ] が合わさった部分に寛骨臼(かんこつきゅう)
という窪み(くぼみ)ができます。恐竜は下の図のような構成になっています。
恐竜には上の図のように恥骨が前を向いているものもあれば、後ろに向いているものもあります。
また、後足の二足で歩行するものもあれば四足で歩行するものもあります。
どのタイプも正面からみると、後足は体から真下に出ています。
足の大腿骨(だいたいこつ)の基部は寛骨臼に連結していますが、恐竜の寛骨臼は貫通した穴に
なっていて、ここに入り込んだ大腿骨をスムーズに体の前後に動かすことができるのです。
鳥類、哺乳類の寛骨臼は貫通した穴となっていませんが、窪みに連結した大腿骨が体の真下に伸びています。
骨の化石から得られる形態的な特徴や、そこから推測される機能などを記載して生物のグループの定義
をおこなうと、生物が示す多様性のために例外的なものが見つかったりもするので混乱を招くことになります。
たとえば、アンキロサウルスの仲間では進化の間に寛骨臼には貫通した穴がみられなくなっており
(文献1)、
先にあげた恐竜の持つ特徴のひとつがなくなっています。
そこで、進化を考えるうえでの生物のグループの定義をするときには、こうした個々の特徴を列記するの
ではない方法が用いられます。
共通の祖先から様々な生物が進化してきた様子は系統樹(けいとうじゅ)と呼ばれる樹状の図で示すこと
ができます。
こうした系統樹中でのグループ分けの考え方の中に、
「共通の先祖を含み、その子孫のすべての種を分類上のグループとする」というものがあります。
このような扇のかなめから先っぽに至るまでの全メンバーを含むグループはクレード(clade、単系統群)
と呼ばれます。
恐竜はクレードとして次のように定義されてきました。
「恐竜はトリケラトプス、現生鳥類、そしてこれらの最も新しい共通の祖先とその全ての子孫からなる」
(文献2)
下の図は生物進化全体の系統樹の一部だけを簡単に描いたものです。
(2017年の最新の説にもとづく系統図についても最後に説明します)
この図の中では、ワニ類(左から2番目)と鳥類以外は絶滅してしまっています。
そして、黄色い丸印がトリケラトプスへの経路と鳥類への経路が別々になった分岐点 [ 両者の最後の(すなわち、最も新しい)共通の祖先の位置) ] で、扇のかなめにあたります。
この分岐点から先の赤い経路上にある動物全てが恐竜になるのです。
クレードは共通の先祖から進化した子孫のメンバー全員を含むというところが特徴で、この定義によると鳥類は恐竜に属します。
しかし一般的には恐竜(dinosaur)は鳥類を含まないということで通用しています(このページでもここまでそのように書いてきました)。
通常、現生動物に注目する場合、爬虫類も系統樹に沿った分類群として扱われることはあまり多くはありません。爬虫類、鳥類、哺乳類が横並びで登場します。
上に示した定義に厳密にしたがって鳥類以外の恐竜を指す場合には、非鳥類型恐竜(non-avian dinosaur)という用語を使います。
このページでは、鳥類とは現生鳥類、そして恐竜とは鳥類を含まない非鳥類型恐竜を指すことにします。
クレードという用語と代表となる生物種の学名を使うと、先ほどの定義は次のように書くことができます(ここでは現生鳥類の代表としてイエスズメ(家雀)が登場します)。
「恐竜はイエスズメ(Passer domesticus)とトリケラトプス(Triceratops horridus)を含む最小範囲の構成メンバーのクレードからなる」
ここで「最小範囲の構成メンバーの」とあるのは、この2種の生物を含むより広い範囲からなるクレードをいくつも指定できてしまうからです。
空を飛ぶ翼竜(プテラノドンなど)、海生の魚竜(イクチオサウルスなど)や首長竜(プレシオサウルスなど)などは恐竜と同じころに生きていましたが、恐竜には属さない爬虫類です。
恥骨の向きについてです。上の図の恐竜進化の始まりの根元で二つに大きく分かれているグループのうち、トリケラトプスが属する左側のグループが後ろ向き、鳥類が属する右側が前向きで進化を開始します。
左側は鳥類と同じ向きなので鳥盤類、右側は竜盤類と呼ばれてきましたが、この後に紹介する新しい系統関係の解釈では大きな見直しが提唱されています。
なお、これも後で触れますが、竜盤類の恐竜も鳥類に近いものは恥骨が後ろ向きになっています。
これが新しい類縁関係の解釈でどのようになっているか、次の図と比べてみてください。
恐竜の系統樹の根元付近での枝分かれの変更があり、そこから先の恐竜のメンバーの配置が大きく入れ替わったところがあります。
恐竜進化の道筋の大きな変更を意味します。
文献3の著者たちによる恐竜の定義は次のようになります。
「恐竜はイエスズメ(Passer domesticus)、トリケラトプス(Triceratops horridus)およびディプロドクス(Diplodocus carnegii)を含む最小範囲の構成メンバーのクレードからなる」
新しい系統関係にしたがうと、イエスズメとディプロドクスだけで定義できるわけですが、トリケラトプスも含めた3種による定義を確立しておけば、このまま今後の研究の進展結果にも柔軟に対応できるだろうという考えがあるからです。
恐竜誕生の初期についての化石情報は限られているため、その進化の経路にはまだまだ不確かなところが多くあります。
今後の新たな化石の発見に期待しつつ、いろんな分析・解析方法を進展させ、今回提唱された系統関係についての仮説への検証がなされていくことになります。
先に触れたように、これまでの系統樹の分岐直後の恥骨の向きをみると、鳥盤類は前向き、竜盤類は後ろ向きとなっています。
この旧定義の竜盤類にあっても、最初は肉食として進化を開始した獣脚類(Theropoda)の中で、より鳥類に近いヴェロキラプトルのような恐竜では恥骨が後ろに向いています。
始祖鳥も後向きです。
このように鳥類の後ろ向きの恥骨は恐竜の進化の間にあらわれたと考えられています。
ディプロドクスを含む、長い首と尾が特徴の竜脚類は旧定義の竜盤類グループのメンバーです。
また、初期の恐竜ヘレラサウルスとその仲間は、どちらのグループの特徴も持ちあわせているものの、旧定義の竜盤竜の進化の中で獣脚類またはその前段階から派生したとみなされていました。
最後の系統樹の図で示す新しい解釈ではではどうかというと、最初の分岐で分かれるグループの一方は、ヘレラサウルスの仲間とディプロドクスの仲間が構成メンバーとなる竜盤類(新定義の竜盤類)です。
そしてもう一方のグループは鳥盤類が獣脚類と一緒になったもので、オルニソスケリダ(Ornithoscelida)と呼ばれます。
このオルニソスケリダという名称も以前に別の定義で使われていたことがあります。
したがって、以前の用語と区別するためには新定義のオルニソスケリダということになります。
これまでの系統樹では鳥盤類と竜盤類が姉妹群(二又に分かれた先の直近の分類グループ同士の関係をいいます)でしたが、新定義では鳥盤類はオルニソスケリダの中で獣脚類と姉妹群となります。
恐竜が現れ、そしてその多様性が広がった中生代の三畳紀中期からジュラ紀初期までに特に注目し、74の分類群の457種類の特徴から改めて類縁関係を推定した結果で、130年間続いてきた「恐竜はその類縁関係から鳥盤類と竜盤類に大別できる」という考えを大幅修正しようという提唱です。
その74の分類群は恐竜に至るまでの進化の経路、そして恐竜進化の最初の頃の経路の上にあるもので、ディプロドクス、トリケラトプス、ティラノサウルスなどは含まれていません。これらの恐竜はこうした初期の分岐の組み換えで最後の図のように配置されるのです。
少し詳しい説明は右サイドバーの 話題リスト(34)「恐竜の新しい系統関係の提唱」 をご覧ください。
文献1:Carpenter, K. Phylogenetic analysis of the Ankylosauria,
in The Armored Dinosaurs, K Carpenter, Ed. (Indiana Univ. Press, Bloomington, 2001)
文献2:Michael J. Benton, Origin and relationships of dinosauria,
in The Dinosauria, D. B. Weishampel, P. Dodson and H. Osmolska, Eds.
(Univ. of Calfornia Press, Berkeley and Los Angeles, 2004)
文献3:Baron, M. G., Norman, D. B., Paul M. and Barrett, P. M. A new hypothesis of dinosaur relationships and early dinosaur evolution. Nature, Vol. 543, 504 (2017).
文献4:Langer, M. C. et al. Untangling the dinosaur family tree. Nature, Vol. 551, DOI:10.1038/nature24011 (2017).
文献5:Baron, M. G. et al. Baron et al. reply. Nature, Vol. 551, DOI:10.1038/nature24012 (2017).
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